芸人「カラテカ」の矢部太郎氏の大ヒット漫画『大家さんと僕』に登場する“大家さん(88歳)”が亡くなったことを、親族の方達の許可を得て報告した。芸人としては何一つ“賞”に恵まれていなかった矢部氏が、この漫画では「手塚治虫賞」を得た。私も少しだけ読んだが、正直、漫画そのもののレベルは素人の域を出ていない。ただ全体にエッセイ風なタッチで、ほのぼのとした大家さんとの交流が描かれる。或る意味では、“家族”とは何か、“世代”とは何か、“幸せ”とは何か、を自然な形で問いかける作風に仕上がっている。多分、その部分が多くの人達に共感を呼んだのだろう。さらに、矢部太郎氏自身が持っている“ひょうひょうとした人柄”も、それにプラスされているかもしれない。この人の場合、その“生き方”としては、決して上手くは見えない。お笑いのセンスがあるようにはとても見えない。多分、芸人としては“脚光”を浴びることは永久に出来ないだろう。けれども、人として、多くの人が“失いかけたもの”を持っている。それに、どこか“放っておけない部分”を備えている。多分、大家さんはそれを見て取ったのだ。だから、さりげなく親しくしようとした。世の中には、放っておいても大丈夫な人と、そうでない人とがいる。そうでない人の多くは“ヘタクソな生き方”をしている。もう少し“上手く生きれば”良いのに…と思うこともある。けれども、その“ヘタクソ”な中に、多くの人が“忘れて来たもの”が置いてきぼりに“残されている”ことがある。そして、その部分に、人は何故か安心したりするのだ。世の中が、どんどん進んで、過去がどんどん走り去って、待ちぼうけを食わされた旅人のように、自分自身さえも“見失いそう”になる時、人はそういう“忘れて来たもの”に価値を見出す。どこか懐かしさを覚えて心愉しくなるのだ。そうして、大家さんは、もう矢部氏に“自分が必要ではなくなった”ことを感じた。ちゃんと、一人歩きできるようになったことを感じた。矢部氏は多分気付いていないが…だから、さよならをしたのだ。
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