近年、小説というものを読まなくなった。年齢のせいか一冊の小説を読み続ける持続力が失われているのだ。ましてや題名を観て“意味不明”な小説は読まない。だから、多分、書店で見つけたとしても手に取ることはなかっただろう。けれども、最初に“インタビュー記事”を読んだので、その中で私の“予感能力”にピンとくるものがあった。つまり、この作家は大成していくな…という予感だ。それが「佐藤究」という犯罪小説家だった。この5月に山本周五郎賞を得て、7月に決まる直木賞のノミネート作品でもある『テスカトリポカ』という“意味不明”な題名の注目作品が最新作だ。この意味不明な作品名は“アステカ神話の神の名”なのだそうだ。あまりメジャーな神ではない。実は、この作家はこれまでにも様々な文学賞を得ているのだが、いま一つ記憶に残らない。その理由の一つは、すべての作品の題名が解かりにくいからだ。純文学の賞を得た『サージウスの死神』、江戸川乱歩賞を得た『QJKJQ』、大藪春彦賞を得た『Ank:』など、その題名からは作品イメージが掴みにくい。したがって余程さまざまなジャンルの小説を雑多に読む人か、何かで彼の作品に触れたことがある人以外は、手に取りにくい。彼の方は“その解かりにくい題名”も個性と考えているのかもしれないが、エンターテイメントとしては少し不利な気がする。もっとも、最近はそういう題名も多くなったから、そういう“時代”なのかもしれないが…。ただ純文学と違って、エンターテイメントというのは“理解しやすいこと”も重要で、せっかく“面白く書く力”を持っているのだから、誰もが「話題にしやすいタイトル」を心掛けた方が良い。最近は日常に留まって、小説らしい小説が少なくなってきているよう感じるので、そういう意味では、久々に出現したスケールの大きな作家だけに、コンプライアンス等で崩れてしまわないことを願うばかりだ。
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